Story of IVY PLACE

過去と未来 どう考えても、掴むべきタイミングだった 惹きよせられた代官山での開業

2006年にビーコンを開けて以来新しいレストランのオープンからは遠ざかっていたが、新しい場所はずっと探しつづけていた。その一方で2010年にはブレッドワークスでパンの製造を始めたりビール工場を拡張したこともあって、それらの商品を使う店を開ける必要性も高まっていった。ただ、次は都心でティー・ワイ・ハーバーのような強いライフスタイルを持つ店をやりたいと考えていたので、色々な物件を見続けてきたがなかなかいい場所には出会えていなかった。

だがその機会は突然思わぬところからやってきた。シカダで偶然に会った妹の友人からメールが来て、彼女が勤める会社が代官山で開発をするのでぜひ話を聞いて欲しいという。あまり多くを期待しないままとりあえず会って話を聞いたのだが、普段はあまりすぐに心を動かされない自分が直感的に面白そうだと強く感じるプロジェクトだった。

すぐに現地を確認してその思いはさらに強くなった。シカダの出店場所を探していた頃から緑あふれるその土地のことは認識していたし、こんな場所で店をやれたらステキだと思っていたが、まさにその場所で「文化の森」を作りその中でも重要な施設として飲食店を位置づけているという。話が進むに連れ、自分の思いはさらに確信に変わっていった。これまできた商業施設の話にはあまり興味が湧くことがなかったが、このプロジェクトにオーナーがかける思いやスタッフたちのエネルギーを直接感じるにつれ、これはすごく楽しい仕事になるだろうという強い予感がしたのだ。

そもそも代官山という土地は大型店を開くには難しいと思っていた。高級住宅街ではあるが住民の絶対数は多くない上にオフィスも少なく、かつ渋谷・恵比寿・中目黒という3つのターミナル商圏に囲まれていて顧客が逃げやすい。イメージとは裏腹に若者向けの店舗が多く、旧山手通り沿いの大型レストランは代官山駅に近いほどウエディングに特化していて、自分たちのようにオトナ相手かつ一般営業重視の大型店が成功できるかどうかは正直わからなかった。ただ旧水戸徳川家の屋敷があったこの場所には良い「気」が流れていることは肌で感じたし、単独の出店ではなく施設全体でのポテンシャルと集客力の高さは強く感じられた。また何より自分たちの店づくりの基本的な考え方、例えばこれだけ楽しいプロジェクトだから顧客も楽しいに違いないというプロダクトアウト的な発想や、地域でオンリーワンの存在となってその街で過ごすライフスタイルを提案し、そこを目指して人が集まるような場所を作りたいという考え方を都心で具現化できる場所として、これ以上のプロジェクトはないだろうという思いが自分を後押しした。

2011年12月5日、IVY PLACE はオープンする。シンボルツリーの大ケヤキなど緑に囲まれた広いテラスを持ち、朝から深夜までの色々な時間帯にカフェやバー・レストランなどのそれぞれ個性が異なる空間で思い思いに時間を過ごすことができる。天王洲で長い時間をかけて作ってきたレストラン・バー・カフェという複合体をコンパクトにまとめた上にシカダ的な考えを取り入れた我々の集大成とも言える店だが、森の中のこの店ではアンティークの家具やシャンデリア、古材を使用した懐かしさを感じる空間で、別荘に遊びに来たようなリラックスした感覚を味わえるはずだ。インテリアデザイナーの長﨑健一氏にとっても独立後初の大仕事として今後のキャリアに大きな影響を与える店となるだろうし、アーティストとして歩みだしたばかりの従姉妹、武田麻衣子の作品も飾ることができた。色々な縁に恵まれて進み、また色々な人達の思いが重なるこの店が、代官山という街の中でオトナたちが集い語り合う街のコミュニケーションプレイスとして機能してくれれば、そう願っている。