Story of CICADA
ティー・ワイ・ハーバーの再建が軌道に乗ると次の出店を考え始めた。自分たちの手で一から開ける店の基本コンセプトは「自分たちが日常的に行きたいような、使いやすい店」。 デイビッドのアイディアはスペインやモロッコを中心とした環地中海料理で、当時アメリカではモダンなタパスが流行しつつあったが、これまでにない点にフォーカスしたコンセプトはとても新鮮だった。そしてシンプルな料理をワインと一緒に気軽にシェアして楽しめ、店からの押しつけは一切なく、好きな物を好きなように好きなだけ食べられる、そんなお店を作ってみようということになった。
問題は出店場所だった。あえて競争の激しい都心での出店を目指したのだが、ただティー・ワイ・ハーバーがあれだけの空間を持つ以上、同じレベルは無理としても何かインパクトのある場所を選びたかった。 初めての物件探しで自分の直感だけを頼りに1年以上かけて100件近くは物件を見たと思うが、納得のゆく物件がなくどうしたものかと思っていた時に紹介されたのがこの場所だった。 そこは西麻布で一時代を築き19年間営業を続けていたイタリアン「イ・ピゼッリ」があり、西麻布に近い立地でありながら賑やかなエリアとは一線を画してクルマも停めやすく、しかも路面の角地で希望する坪数があると同時に、ある世代にとっては思い入れのある場所であるなど、理想的な出店場所に思えた。
いわゆる「居抜き」で入り、厨房の位置はそのままに内装を変えることになった。バーへの動線を考えると当時交差点側にあった入口にどうしても違和感があったため広尾側に入口を移し、昔は外から中が見えなかったが思い切って全面をガラス張りにした。 また当初はすべての壁を取り払って大きな広い部屋を作ろうと思っていたのだが、解体の途中で昔の図面からは読みとれなかった抜けない壁があることが判明。そのためダイニングルーム・後方のプライベートエリア・バーという3つの小さなスペースに区切らざるをえなかったが、結果としてそれぞれがつながっていながら適度な落ち着きのある空間になった。
内装は木と間接照明を使い、本物のキャンドルを使用した照明や、オリーブの床、暖炉と薪といった物を使用して、暖かみのある落ち着く空間を目指した。また使いやすさを考え、2時のオーダーストップまでダイニングでは予約を受け、バーでもフルメニューで食べられるようにした。 またワインは地中海沿岸を中心に80種類を揃え、そのうち20種類ずつはグラスで飲めるようにした。そしてリスクは承知でグラスワインの量も価格もボトルの1/5として少人数でも色々なワインを楽しんでもらえるようにした。
初めてのオープンで苦労も多かったが、色々な人との出会いもあってティー・ワイ・ハーバーとは違った思い入れがある。2003年のオープン以来多くのファンがいる店だが、自分自身も寄ったりすると家に帰った時のような安心感がある、そんな店である。







