Story of breadworks

想い続けていたその場所でベーカリーという夢を形に手作りのパンと生み出す水辺のライフスタイル

ブレッドワークスがある場所は祖父が寺田倉庫を創業した土地で、建物自体は戦後の創業時に建てた倉庫のひとつだ。1997年にそのうちの1つをリノベーションしてティー・ワイ・ハーバーが生まれたが、ブレッドワークスがある倉庫はオフィス、シアター、そしてスタジオとして時代のニーズに合わせながら使われていた。だが必ずしも有効活用されているとはいえず、一方でその倉庫はティー・ワイ・ハーバーへ行く誰もが目にする場所にあったため、この倉庫をいつかは自分達で使いたいと思い続けていた。そのため遂にその場所が空くと聞いたとき、まず真っ先に場所を押さえた。

その大きな倉庫を前にして考えた。この場所にこれ以上レストランを増やしても意味がないし、レストランと違う目的で来てくれて、補いあうものとは何だろう --- すでにレストランと水上ラウンジがありランチ・ディナー・深夜は利用できる一方で、この素晴らしい水辺の空間を朝でも味わえ、且つこれまで断るしかなかったランチに間に合わない顧客や、午後ちょっとテラスでお茶をしたい顧客たちに利用してもらえることができる業態というと、カフェは理想的な選択肢だった。

さらに、ただのカフェではなくベーカリーを併設すればレストランと異なる目的で来店したり、あるいはレストランで食事をするついでに買うことができる。問題はベーカリービジネスの経験や知識がまったくなかったことだが、「液体のパン」とも呼ばれるほどパンと共通点の多いビールを造ってきた私たちには比較的ハードルが低くまた正しい方向に思えたし、ビジネスとしても隣に巨大なレストランという卸先を抱えていたことは大きなポイントだった。だが何よりも最後に私を決断させたのは、小さい頃からパンを食べて育ってきた私にとってベーカリーが長年の夢だったことに加え、私自身がパン屋のない天王洲で焼きたてパンへのニーズを強く感じていたからに他ならない。そして2010年、ブレッドワークスが誕生した。

ティー・ワイ・ハーバー同様に古い倉庫の改装工事は苦労が多かったが、これまでシカダ以外の全店舗でインテリアデザインを担当してきた長崎健一氏が、独立後の初仕事として木田小百合さんと一緒に難工事をまとめあげ、天井の高さを活かしたままナチュラルで優しい空間を作ってくれた。また単純にパンを売るだけの場所ではなく気持ちよくパンを食べる空間であるために、晴れた日には入り口や窓を開けて外とつながるようにしたり、(焼鳥屋のように)パンが焼ける匂いをわざとティー・ワイ・ハーバーへの通路に向けて人を誘うような工夫などにも挑戦してみた。効果の程は不明だが….

ブレッドワークスができて何よりも嬉しかったのは、ティー・ワイ・ハーバーやウォーターラインとあわせて、朝8時から深夜まで素晴らしい水辺の空間をずっと楽しめるようになったことだった。週末の朝などに家族で朝食を食べていたり、地元の人たちが犬の散歩がてらテラスでコーヒーを飲んでいたり、午後ゆったりとPCをいじっていたり…. そんな光景を見るたびにこの店を開けてよかったとつくづく思う。いま、かつて倉庫や漁師小屋しかなかった天王洲という場所には、祖父が想像さえしなかっただろう豊かな水辺のライフスタイルがある。